最高裁判所大法廷 昭和24年(ク)25号 決定 1950年9月18日
主文
本件特別抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
抗告代理人弁護士古家幸吉の抗告理由は末尾添付のとおりである。これに対し当裁判所は次のとおり判断する。
所論の要旨は民訴三九四条は訴訟記録の現存する通常の場合に関する規定であつて、本件のように訴訟記録焼失の場合には適用すべからざるものであり、もしかかる場合にも尚適用あり従つて、尚上告理由は法令違背を具体的に主張するを要するものとなすならば、民訴三九四条は憲法三二条に反する違憲の規定といわねばならなぬ。しからば民訴同条の規定を本件の場合に適用した原決定は違法である」と主張する。しかし、上告は、原判決が法令に違背したことを理由とするときに限り為すことができるものであり、上告理由は上告状又は別に提出する上告理由書に記載すべく、上告裁判所は右上告理由に基づき不服の申立のあつた限度においてのみ調査すべきものであることは、民訴三九四条、三九八条、四〇二条の各規定により明らかなところである。そして右民訴三九四条の規定は、訴訟記録が現存する通常の場合のみならず、訴訟記録焼失の場合においても亦適用あるものと解するを相当とすべきである。すなわち、訴訟記録焼失の場合と雖も上告を申立てる以上は、その理由において原判決の法令違背を具体的に主張し立証すべきであり、そして、裁判所はその理由ありと認める場合に破棄すべきものである。しかるに、本件においては、破棄するに足る具体的の主張がないから、裁判所はこれを棄却するの外はない。次に、記録焼失の場合における上告の取扱として、民訴三九四条の規定のみをもつて足るか否かについては立法上考慮すべき点がないでもないが、記録焼失のため上告理由の発見が困難又は不可能な場合、実質上上告が阻止される結果となるというだけでは、立法上の当不当の問題とはなり得ようがこれをもつて直ちに民訴三九四条を所論憲法違反の規定ということはできない。それ故論旨は採るを得ない。
よつて、民訴四一九条の三、四〇一条訴訟費用につき同九五条、八九条に則り、主文のとおり判決する。
この決定は裁判官全員一致の意見である。
(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹次郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上登 裁判官 栗山茂 裁判官 真野毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)